CREATIVE MUSEUM TOKYOで、展示替え期間を利用して開催するイベントの第二弾として、「Creative Talk 展覧会をひらく人、つたえる人」と題したトークイベントを開催しました。
2025年12月10日は、“つたえる人”として年間300以上の展覧会に足を運ぶ美術ブロガー・Tak(タケ)さんこと中村剛士さんに2025年の展覧会の思い出と、2026年の注目展覧会について語っていただきました。
Tak(タケ)
Tak(タケ)の愛称でブログ「青い日記帳」を主宰。1年に300以上の展覧会に足を運んでレビューを行うほか、美術の本質を見極めながら、広くて深くてしなやかな美術鑑賞法を発信。「web美術手帖」「美術展ナビ」などにも定期的に記事を執筆している。「敷居の高かった美術鑑賞が身近になった」「絵の見方がわかるようになった」などと好評を得ている。著書に『いちばんやさしい美術鑑賞』『失われたアートの謎を解く』(ちくま新書)、『カフェのある美術館』(世界文化社)、『すごすぎる絵画の図鑑』(KADOKAWA)など筆活動ほか、テレビ、ラジオ出演、各種講演、イベント主催など、アートの伝道師として幅広く活躍中。
■入場者数から2025年の展覧会を振り返る
――まずは2025年の展覧会の入場者数ランキングを見てみましょう。今年は1位と2位が「モネ 睡蓮のとき(国立西洋美術館)」、「モネ 睡蓮のとき(京都市京セラ美術館)」。1位の80万人という数字は久しぶりに見ましたね。
そうですね。コロナ渦で人が入らない期間が長かったし、京都会場で35万人入ったというのも大きいですよね。
――3位は「坂本龍一|音を視る 時を聴く(東京都現代美術館)」。4位は「Hello Kitty展―わたしが変わるとキティも変わる(東京国立博物館)」。坂本龍一展は、1日の入場者平均が約3,600人だったそうです。
Hello Kitty展は東博でやったというのも注目を浴びましたよね。この1日平均の入場者数って意外と大事なんです。モネ展は1日平均人数が約7,400人で1位、全体も1位ですが、5位の「特別展「はにわ」(東京国立博物館)」は会期が短かったので、1日平均だけで見ると2位なんですよね。
――その他には、「超 国宝―祈りのかがやき―(奈良国立博物館)」、「日本国宝展(大阪市立美術館)」、「美のるつぼ(京都国立博物館)」、金沢21世紀美術館の「コレクション展3」など、関西や地方の展覧会も目立ち、関東意外の展覧会も来場者が多かった1年だったようです。ここ、CREATIVE MUSEUM TOKYOで開催した「ヨシタケシンスケ展かもしれない たっぷり増量タイプ」も14位にランクインしていますね。
関西の展覧会は本当に混んでましたね。ヨシタケシンスケ展はいま巡回しているんですよね。美術にあまり興味がない人でも、ヨシタケさんの展覧会だけは行ったという人の話も聞きました。
――今年は、コロナ渦中に様々な事情で開催できなかった企画が戻り始めた年のように思います。その影響で展覧会のラインナップもかなり広がってきていますね。
■2025年の展覧会、5つのキーワード
「万博」「浮世絵」「戦後80年、被爆80年」「女性アーティスト」「ファッション」
「万博」
関東在住の方はあまりピンとこないかもしれませんが、関西は万博で大盛り上がりでした。万博に関連した展覧会も多く、たとえば「美のるつぼ」は、ただ日本美術を並べただけではなく、万博とうまく融合させた渋い展覧会でした。とても良かったです。
「超 国宝―祈りのかがやき―」もすごかったですね。仏教美術だけを集めた国宝の展覧会で、これは奈良国立博物館じゃないとできないなと感じました。奈良博さんだから貸してもらえるようなお寺の仏像を展示しているので、東京では見られない展覧会だと思います。最後の展示室が、真っ白な空間に阿弥陀仏様が座している展示で、賛否あったようですが私はすごくよかったと思っています。グッズも凝っていて面白い展覧会でした。
「若きポーランド[色彩と魂の詩 1890-1918](京都国立近代美術館)」も万博関連の展覧会でした。ポーランドの絵画をまとめて見る機会ってなかなかないので、当たりでしたね。巡回しないそうので行くしかないと思いました。
――これはどこのコレクションなんですか?
ポーランド国立美術館です。作品を見ながら、“ポーランドらしさ”って何だろう、と考えたり……。ほとんど知らない作品ばかりで興奮しながら見ていました。結構長居してしまって、ずっと見ていたいと思いましたね。
万博絡みの東京の展覧会では「静嘉堂の重文・国宝・未来の国宝(静嘉堂@丸の内)」がありました。過去の万博や今回の大阪万博で公開された静嘉堂の所蔵作品をまとめて見せる展覧会で、万博が終わった後12月21日まで開催されていました。
「浮世絵」
大河ドラマ関連の展覧会は毎年多いですが、今年は「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺」に関連して、浮世絵展が特に多かったですね。どれも捻っていて面白い展覧会が多かったです。
例えば、「江戸の名プロデューサー 蔦屋重三郎と浮世絵のキセキ(千葉市美術館)」。千葉市美術館の浮世絵コレクションの展示ですが、蔦重に絡めたものになっています。タイトルに惹かれて行ったという人も多いのではないでしょうか。
他にも「蔦屋重三郎と版元列伝(太田記念美術館)」、「喜多川歌麿と栃木の狂歌(栃木市立美術館)」など。蔦重絡みではないですが、「五大浮世絵師展―歌麿 写楽 北斎 広重 国芳―(上野の森美術館)」は個人コレクターの方の展覧会で、今年見た浮世絵展の中でも特に見応えがありました。少し前まで四大浮世絵展だったのが、最近は五大浮世絵展になって、歌川国芳を入れるようになったんですよね。
――「推ヲ探セ」という展覧会コピーもあり、アイドルグループのメンバーが増えたみたいですね(笑)。
「ぜんぶ北斎のしわざでした。展(CREATIVE MUSEUM TOKYO)」は、展示ケースや什器がすごいんです!浮世絵って小さいので、どう見せるのかと思ったら、大きなバナーを大胆に飾ったり、什器を丸くしたりと、すごく見せ方が上手かったです。浦上蒼穹堂さんが北斎漫画をたくさん持っているので、いろんなページを同時に見ることができたのも面白かったですね。
――どの浮世絵展もタイトルやコピーが凝っていたり、男性アイドルがアンバサダーに就任していたりなど、様々な工夫をしているのがわかりますね。
「戦後80年、被爆80年」
一番話題になったのは、「記録をひらく 記憶をつむぐ(東京国立近代美術館)」ですね。PRを一切せずに口コミで広がった戦争画の展覧会です。
――知らなかったです。コレクション展ですか?
企画展なんですが、新聞社などもついていない東近美さんが単独で開催した展覧会なんです。ポスターやチラシ、図録も作っていなくて、プレス内覧会もやらなくて。
――軍に描かされていた戦争画などもあったのでしょうか?
もちろん。藤田嗣治の「アッツ島玉砕」から、戦争当時の様子を伝えるものなど、多岐にわたって様々な戦争画が展示されていました。
戦争画の展覧会では「ゴヤからピカソ、そして長崎へ 芸術家が見た戦争のすがた(長崎県美術館)」が一番よくて、今年のベスト10に入れちゃおうかなと思っています。原爆寄りの展覧会なのかと思いましたが、長崎県美はスペイン絵画のコレクションが有名なので、スペイン絵画を中心とした戦争がテーマの展覧会でした。「ゲルニカ」のレプリカも来ていましたね。
これは長崎県美が企画した渾身の展覧会だったのですが、長崎県美の今年の展覧会ラインナップを見ると……一番お客さんが入らなさそうなテーマなんですよね。学芸員さんから聞いた話ですが、こういう、地味だけど自分たちの渾身の企画展をやるために、アニメやキャッチ―な展覧会でたくさんの人に来てもらっているんだ、と……(笑)。
こういう展覧会を見ると、地方の美術館の特徴がわかって面白いです。だから地方に行くときには、これは巡回だから別の場所でも見られるな、とか、せっかく長崎に行くんだったら合わせて行きたいな、とか、旅行のプラン決めに組み込んでいます。
「被爆80年企画展 ヒロシマ1945(東京都写真美術館)」、またこの前開幕したばかりの「いつもとなりにいるから日本と韓国、アートの80年(横浜美術館)」などもあります。横浜美術館の展示は、韓国にも巡回するんです。日本と韓国が共同でやっている、いい展覧会です。
「女性アーティスト」
「ヒルマ・アフ・クリント展(東京国立近代美術館)」、「彼女たちのアボリジナルアート オーストラリア現代美術(アーティゾン美術館)」など、女性アーティストも今年のテーマのひとつでした。
「生誕120年 宮脇綾子の芸術 見た、切った、貼った(東京ステーションギャラリー)」は、僕は知らない作家さんだったんですが、手芸の世界ではとても有名なんですね。ステーションギャラリーの冨田館長の企画で、人が裁ききれないくらい人気だったという伝説の展覧会です。
上村松園の展覧会が、関東と関西でほぼ同時期に開催されていたのも印象的でした。「上村松園と麗しき女性たち(山種美術館)」、「生誕150年記念 上村松園(大阪中之島美術館)」で、松園は関西の出身なので、大阪中之島美術館は特にいい作品がたくさん出ていましたね。
「ファッション」
現在開催中(2025年12月)の「つぐ minä perhonen(世田谷美術館)」は、世田谷美術館ってこんなに広かったっけ?と思うくらい空間がすごく広く感じる展示でした。これは鉄板の展覧会だと思います。
――以前もminä perhonenの展覧会がありましたが、今回はより布をしっかり見せて、布を作るプロセスをさらに深掘りするという展示になっています。職人さんがいないとこの布は生まれなかったということがよくわかりますし、日本のものづくりについて考えようと思わされる展示でしたね。
「永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル —— ハイジュエリーが語るアール・デコ(東京都庭園美術館)」は、ヴァンクリに普段興味がない自分が見ても、とてもいい展覧会でした。展示室に見慣れない展示ケースがあったのですが、実は全てこの展覧会のために作られたケースだったそうですね。展示ケースって、高いんですよね……。ケースを見に行くために行ってもいいと思うくらいでした。
ファッションに入れていいか悩みますが、「喜如嘉の芭蕉布展(国立工芸館)」。私も初めて知りましたが、重要無形文化財にも指定されている芭蕉布(ばしょうふ)という沖縄の着物を一気に見せるという展覧会です。これは金沢まで行った価値がありました。
「ニッポン制服クロニクル(弥生美術館)」もとても面白かったですね!大正時代の制服から始まり、安室ちゃんのルーズソックススタイルや、最新の制服までクロニクル的に紹介する展覧会です。
――美術系じゃない展覧会も入ってくるんですね。メインビジュアルのイラストは誰が描かれているんですか?
森伸之さんというイラストレーターさんです。昔から『制服図鑑』を描いている人で。その他にも参加アーティストがたくさんいて、制服展示の合間に制服のイラストが展示されていたり、絵画が展示されていたりもしました。弥生美術館さん、面白いですよね。
最近見てきた「FUJI TEXTILE WEEK/布の芸術祭」。僕は地方芸術祭の中でこれが一番好きで、毎回必ず行っています。富士吉田市が会場になっていて、半日くらいあれば見て回れます。冬季は使われていない学校のプールを展示場所として使っていたり、富士山信仰を表している作品があったり。いろんなアーティストさんが布をテーマにして作品を作っている芸術祭です。富士吉田市は布の街なんですよね。多分、皆さんが着ている服の布なども富士吉田の工場で作られているんじゃないかな。
★その他、番外編としてTakさんが挙げてくださった2025年の展覧会
- 雪村 ―常陸に生まれし遊歴の画僧―(茨城県立歴史館)
- ACN ラムセス大王展 ファラオたちの黄金(ラムセス・ミュージアム at CREVIA BASE Tokyo)
- 西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで(国立西洋美術館)
- 没後20年 東野芳明と戦後美術(富山県美術館)
- アンゼルム・キーファー:ソラリス(元離宮二条城)
- ポケモン×工芸展 美とわざの大発見(八戸市美術館)
- エルヴィン・ヴルム 人のかたち(十和田市現代美術館)
- これからの風景 世界と出会いなおす6のテーマ(静岡県立美術館)
- ライシテからみるフランス美術 信仰の光と理性の光(宇都宮美術館)
- 宋元仏画―蒼海を越えたほとけたち(京都国立博物館)
- 千年の出逢い──北宋西園雅集の物語(台北・国立故宮博物院)
■Takさん注目の2026年の展覧会
- 大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱~海を越えた江戸絵画(東京都美術館)
- アンドリュー・ワイエス展(東京都美術館)
- 下村観山展(東京国立近代美術館)
- 密やかな美 小村雪岱のすべて(あべのハルカス美術館)
- 美と祈り—近現代日本美術にみるキリスト教(岡山県立美術館)
- 焼絵 茶色の珍事(板橋区立美術館)
- NHK日曜美術館50年展(東京芸術大学大学美術館)
- 特別展 源氏物語 王朝のかがやき(京都国立博物館)
「大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱~海を越えた江戸絵画」は、日本美術作品が帰ってくるだけだろうとちょっと甘く見ていたのですが……。大英博物館所蔵の襖絵と一連の作品だったことがわかった、青森で発見された襖絵が展示されるんですよね。あれはどうしても見たかったんですよ!注目度が高いです。
――「美と祈り—近現代日本美術にみるキリスト教」は何が注目ポイントですか?
“祈り”をテーマに、国内作品をまとめて見せるところですね。「ライシテ展」と近いですが、日本人が描いた祈りの形なのでまた違った視点で見ることができそうだなと思っています。
板橋区立美術館の「焼絵 茶色の珍事」。焼絵って全部茶色い絵なんですけど……焼いてるだけなので(笑)。この映えにくい展示をやれるのは、さすが板橋区立美術館さんですね。
やっぱり、展覧会っていろいろな刺激があって見飽きないですよね。期待していたものと違った展覧会があっても、それが逆に面白いんです。だから、無駄になったとか、損をしたと感じたことは一度もなくて。
そういえば、今度CREATIVE MUSEUM TOKYOで始まる「大カプコン展―世界を魅了するゲームクリエイション」も中之島美術館で見てきました。東京ステーションギャラリーの冨田館長がとてもおすすめしていて、行ったほうがいいよと言われたんです。ゲームの展覧会ですが、この何十年の技術の進歩や、ゲームづくりの裏側がよくわかる展覧会でした。僕はゲームには詳しくないですが、見ていて楽しかったです。
――大カプコン展のようなゲームの展覧会から、地方の渾身の企画まで、展覧会の多用さが年々広がっているなと感じます。今後も、こんな切り口があったのか!と、様々な展覧会に興味を持って楽しんでいただけたら嬉しいですね。今日はありがとうございました!
(執筆・笹本なつる)
